妊娠糖尿病
妊娠糖尿病とは
妊娠中は胎児に栄養を送るために母体の体の仕組みが変化し、血液中の糖分である血糖値が上がりやすい状態になります。そして、もともと妊娠前は糖尿病ではなかった人が、妊娠に伴い糖尿病ほどではないけれども、血糖値が高くなる状態のことを妊娠糖尿病といいます。
出産後には血糖値が正常に戻ることが多いのですが、妊娠中に母体の血糖値が高い状態が続くと、胎児が大きくなりすぎたり(巨大児)、低血糖が頻繁に起きたり(新生児低血糖症)するなど、母子ともに様々な影響が出る可能性があります。
一般的に「糖尿病は太っている人に多い」と考えられていますが、妊娠糖尿病は痩せている方でも多く発症します。実際に妊娠された方の8人に1人は妊娠糖尿病と言われます。
妊娠糖尿病の原因は?
妊娠糖尿病の主な原因は、妊娠に伴うホルモンバランスの変化にあります。
通常、私たちの体は膵臓から出るインスリンというホルモンによって血糖値を一定に保っています。しかし、妊娠すると胎児を育てるために胎盤からヒト胎盤性ラクトゲン、プロゲステロン、コルチゾールなどのインスリンの働きを抑えるホルモンが分泌されるようになります。これをインスリン抵抗性と呼びます。
通常はこの抵抗に打ち勝つためにインスリンがより多く分泌されますが、インスリンの調整が追いつかなくなった時に血糖値が上昇してしまいます。
体質的な要因となりやすい背景
妊娠に伴う変化はすべての妊婦さんに起こりますが、特に妊娠糖尿病になりやすい要因を持っている方います。決して本人の努力不足ではなく、体質や環境が複雑に関係しています。具体的には
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ご家族に糖尿病の方がいる(遺伝的背景)
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35歳以上の妊娠
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妊娠前からの肥満
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過去に4000g以上の子供を出産したことがある
現代のライフスタイルと妊娠
食生活の変化や運動不足、また共働き世代の増加に伴い仕事を持ちながらの妊娠生活をされる方も多く、精神的・肉体的なストレスも血糖値に影響を与える要因となり得ます。
妊娠に関わる糖尿病の種類
妊娠中の糖代謝異常は、その程度や発症のタイミングによって大きく3つの種類に分類されます。これらを正確に区別することが、妊娠から出産までの血糖管理の方針を決定する上で非常に重要です。
妊娠糖尿病
妊娠中に初めて発見された、または発症した、糖尿病には至らない軽い糖代謝異常の状態のことを指します。多くの妊婦さんがこのタイプに該当します。
出産後には血糖値が正常化することが多いですが、将来的に糖尿病を発症する可能性が約7倍と極めて高いため、産後も定期的なチェックが望ましいとされています。
妊娠中の明らかな糖尿病
妊娠中に初めて糖尿病の診断基準を満たすほど血糖値が高い状態を指します。妊娠前から糖尿病があったことに気づかなかった場合や、妊娠を契機に糖尿病が発症した場合が含まれます。
この場合は、妊娠糖尿病よりもさらに厳格な血糖管理が必要となります。
糖尿病合併妊娠
妊娠前からすでに糖尿病と診断されていた方が妊娠した状態を指します。
妊娠を計画する段階から血糖値をコントロールしておくことが理想的ですが、妊娠が判明してからでも、専門医による適切な治療介入によって安全な出産を目指すことができます。ただし、糖尿病の治療で薬を使用している場合は、薬の種類によっては早急に中止しなくてはなりませんので、早めに専門医に相談する必要があります。
妊娠糖尿病の診断方法
一般的な血糖値の正常とされている範囲です。
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・空腹時血糖値 100mg/dL未満 ・食後1時間後の血糖値 140mg/dL未満 ・HbA1c 5.5%未満 |
妊娠糖尿病の診断基準は「75gブドウ糖負荷試験」を行い血糖値を確認し、どれか1項目でも当てはまれば妊娠糖尿病の診断となります。
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・空腹時血糖値 92mg/dL以上 ・食後1時間の血糖値 180mg/dL以上 ・食後2時間の血糖値 153mg/dL以上 |
*「75gブドウ糖負荷試験」とは、とても甘い砂糖水のようなものを飲んで、30分後、60分後、120分後それぞれ採血を行う検査です。甘いものを摂取したあとの血糖値やインスリンの値を確認します。

妊娠糖尿病の合併症
多くの場合で自覚症状はありませんが、血糖が高い状態が続くことで血管に過度なストレスがかかるため、出産に関連した様々な合併症のリスクが高くなります。
母体への影響
妊娠高血圧症、羊水量の異常(羊水過多、羊水過小)、早産、難産など
胎児への影響
流産、巨大児、胎児発育不全、低血糖、多血症、電解質の異常など
加えて、妊娠糖尿病の方から生まれた赤ちゃんは、将来、肥満や糖尿病などの生活習慣病にかかりやすいといわれています。
妊娠糖尿病の治療方法
妊娠糖尿病の治療のゴールは、母体・胎児ともに妊娠・出産に関わる合併症を防ぎ、無事に出産を迎えることです。治療の基本は、まず食事の内容を工夫することから始まります。
妊娠中の血糖値の目標
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・空腹時 95mg/dL未満 ・食後1時間の血糖値 140mg/dL未満 ・食後2時間の血糖値 120mg/dL未満 |
食事療法(分割食の活用)
最も重要で最初に行う治療です。単に量を減らすのではなく、1日の必要エネルギー量を3回の食事と2〜3回の間食に分けて摂る分割食が推奨されます。
一度に食べる量を少なくすることで、食後の血糖値の急上昇を抑えることができます。
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1日の摂取カロリーを適切に設定する
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血糖値を上げにくい食品(低GI食品)を取り入れる
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野菜から食べるベジタブルファーストを実践する
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間食の内容を糖質の少ないものに変える
適度な運動療法
妊娠の経過に問題がなければ、食後の軽い散歩やマタニティヨガなどの有酸素運動も血糖値を下げる助けになります。
ただし、お腹の張りが強い場合や切迫早産のリスクがある場合は控える必要があります。必ず産科の先生に確認した上で、無理のない範囲で進めていきます。
インスリン療法
食事や運動だけでは血糖値のコントロールがうまくいかない場合にはインスリン治療を行います。妊娠中は内服薬やマンジャロなどのGLP-1/GIP受容体作動薬は胎児への影響を考慮して原則として使用してはいけません。
インスリンはもともと体内にあるホルモンであり、胎盤を通過しないため、胎児への安全性が確立されています。自分で注射することに不安を感じる方も多いですが、最近の注射は針が極めて細く痛みも少なくなっています。
自己血糖測定と管理
妊娠に関連する糖尿病は、通常の糖尿病の血糖コントロールより厳格な治療が必要となりますので、自宅での血糖測定も必要となることがあります。何を食べた時に血糖値が上がりやすいか、逆に空腹時に低血糖がないかなど、ご自分で確認するためです。
インスリンについては「インスリン治療」のページ、測定については「自宅での血糖測定(SMBG・CGM)」のページを参照してください。
妊娠糖尿病についてのよくある質問
Q1. 出産したら治療はすぐに終わりますか?
A1. 妊娠糖尿病の多くは出産後に血糖値が正常に戻るため、インスリン治療などを行っていた場合も多くは中止できます。ただし、産後数ヶ月後に再度糖尿病の検査を行うことが重要です。
Q2. 赤ちゃんが将来糖尿病になりますか?
A2. お母さんが妊娠糖尿病だったからといって、赤ちゃんがすぐに糖尿病になるわけではありません。しかし、遺伝や成長過程での生活習慣によっては将来のリスクが高まるという報告もあります。幼少期から良い食習慣を身につけさせてあげることが大切です。
Q3. 次の妊娠でもまた妊娠糖尿病になりますか?
A3. 一度、妊娠糖尿病になった方は、次の妊娠でも繰り返す可能性が非常に高いと言われています。次回の妊娠を考える際は、妊娠前からの生活習慣の管理が重要になります。
Q4. インスリン注射は一度始めると一生続けなければなりませんか?
A4. 妊娠糖尿病におけるインスリン治療は、あくまで妊娠中の血糖値をコントロールするために期間限定で行うものです。産後はインスリンを必要としなくなるケースがほとんどですのでご安心ください。
最後に
だれでも妊娠糖尿病になる可能性があります。不健康な食事や運動不足、肥満が原因という側面もありますが、もともとインスリンの分泌能が弱かったり、もともとの体質の影響も大きいです。そしてしっかりと妊娠糖尿病であることを確認し、それに合わせて十分に注意すれば、母児ともに健康的な妊娠。出産を行えます。
「これから妊娠を予定していて糖尿病か確認したい」「妊娠糖尿病かどうか心配」「妊娠糖尿病のリスクが高いか聞きたい」など不安などありましたら、西東京市の糖尿病専門クリニックである「はたけやま内科クリニック」へご相談ください。
