心電図異常
このページでは、検診でよく見られる「心電図異常の所見」についてそれぞれ解説していきます。
健康診断の結果について不安な点がございましたら、の当院へご相談ください。
洞不整脈
「不整脈」という言葉がついているため、「心臓のリズムが狂っている」「危ない病気」と不安になられる方も多いのですが、これは「病気」ではなく、生理的な現象です。洞性不整脈または呼吸性不整脈とも呼ばれます。
洞不整脈の最大の特徴は、「呼吸に合わせて脈の速さが変化する」ことです。心臓は自律神経の働きによって、息を吸うときに脈が少し速くなり、吐くときに脈が少し遅くなります。
この調整機能が活発に働いていると、心電図上では脈の間隔が一定ではなく伸び縮みしているように見えます。これが洞不整脈の正体です。子供や若者、あるいは日頃からスポーツを活発にしている方によく見られます。
したがって、子供や若者が検診で「洞不整脈」と指摘されただけであれば、治療の必要はありません。精密検査も不要ですので、生活上の注意点や運動制限なども一切ありません。
洞徐脈
洞性徐脈とも呼ばれます。健康診断の心電図で「脈が遅い(1分間に50回未満など)」と指摘される項目です。
「洞」とは心臓の脈をつかさどる指令塔(洞結節)を指していて、洞徐脈とは「指令塔からの電気信号のリズム自体は正しいが、そのスピードだけが遅くなっている」状態を意味します。
そのため、不整脈の一種ではありますが、直ちに病気として扱われるわけではないことが多いです。
脈が遅くなる原因は大きく二つあります。一つ目は「生理的な要因」です。日頃からスポーツをしている方や、自律神経のうちリラックスさせる神経の働きが強い方は、安静時の脈が40回台になることも珍しくありません。
二つ目は「病的な要因」です。甲状腺機能の低下や、服用している薬(血圧の薬など)の影響、あるいは加齢に伴って指令塔(洞結節)の機能が低下している状態(洞不全症候群)などが挙げられます。
検診で指摘された場合、自覚症状がなければ過度な心配は不要ですが、念のため心電図を確認し、極端な徐脈がないかをチェックすることをお勧めします。
当院では必要に応じてホルター心電図(長時間心電図)を行い、日常生活の中で危険な脈拍数の低下がないかを詳しく調べます。病的な徐脈(洞不全症候群)と診断され、それによる失神などの症状がある場合は、ペースメーカーが必要となることがありますので、「最近、立ちくらみがひどい」「疲れやすくなった」と感じる方は、脈が遅すぎることが原因かもしれませんので、一度ご相談ください。
洞頻脈
洞性頻脈とも呼ばれます。健康診断の心電図で「脈が速い(一般的に1分間に100回以上)」と指摘される項目です。
「洞」とは心臓の正常な指令塔(洞結節)を指しており、洞頻脈とは「心臓のリズム自体は正常だが、そのスピードだけが速くなっている状態」を意味します。運動した後や、緊張した時に誰にでも起こる生理的な反応であることが大半です。
検診で指摘される最も一般的な原因は、測定時の「緊張」です。また、睡眠不足、直前のカフェイン摂取、喫煙、あるいは検査会場まで急いで歩いてきた直後なども原因となります。
これらの場合、心臓そのものに病気があるわけではないため、治療の必要はありません。
しかし、中には「治療が必要な体の不調」のサインとして脈が速くなっている場合があるため、注意が必要です。
代表的な原因として、貧血や甲状腺機能亢進症、脱水、感染症(発熱)などが挙げられます。これらは心臓の病気ではありませんが、放置すると心臓に負担をかけ続けることになります。
そのため、検診で「洞頻脈」と指摘された場合、動悸、息切れ、だるさ、体重減少などの自覚症状がある場合は、一度当院を受診することをお勧めします。
当院では、心電図を確認するとともに、採血検査を行って、貧血や甲状腺ホルモンの異常が隠れていないかをチェックします。原因が特定できれば、それに対する治療(鉄欠乏性貧血であれば鉄剤の投与など)を行います。
早期再分極
健康診断の心電図判定で、「早期再分極」あるいは「J波(ジェイは)」と記載される項目です。心臓の筋肉が収縮した後、電気的な状態が回復する過程(=再分極)が、通常よりも少し早いタイミングで始まっている状態を指します。
この波形を持つ方のごく一部(非常に稀なケース)において、致死的な不整脈(心室細動)が発生し、突然死の原因となることが判明したため、注意喚起のために指摘されるようになっています。
「突然死」と聞くと怖くなるかもしれませんが、検診でこの波形を指摘される方の99%以上は「良性(=問題ない)」であり、病気ではありません。治療の必要はなく、寿命が短くなってしまうこともありません。
重要なのは「良性」の中に隠れている、ごくわずかな「危険なタイプ」を見逃さないことです。「危険なタイプ」の特徴は以下の2つになります。
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失神の経験がある
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血縁者に、若くして突然死された方がいる
これらに該当する場合は、致死性不整脈のリスクが高いため、専門的な精査が必要です。逆に、これらの特徴がなく無症状であればリスクは極めて低いです。
検診で指摘された場合、まずは当院を受診してください。心電図の波形を詳細に評価し、必要に応じて心臓超音波検査(心エコー)やホルター心電図(長時間心電図)も行います。
多くの場合、「年1回の検診で経過観察」となりますので、まずは一度ご相談いただければと思います。
右軸偏位・左軸偏位
心電図の判定でよく見かける所見で、心臓を動かす「電気信号の流れる方向」が、標準よりも「右寄り」か「左寄り」かを示すものです。その原因のほとんどは、「病気」ではなく「体型」によるものです。
ただし、ごく一部に隠れている心臓の病気を見逃さないために、一度だけ当院にご相談いただき、心臓に問題のないことを確認することをお勧めします。
右脚ブロック(完全右脚ブロック、不完全右脚ブロック)
健康診断で頻繁に目にする所見の一つです。心臓は電気信号が筋肉に伝わることで収縮しますが、その電気の通り道は途中で右心室側(右脚)と左心室側(左脚)の二手に分かれます。
右脚ブロックとは、このうち、右心室側の通り道の電気が流れにくくなっている状態を指します。このとき、右心室には電気信号が回り道をして伝わるため、心電図の波形が変化して記録されますが、症状が出ることはほとんどありません。
右脚ブロックの大多数は病気ではなく、健康な方にもよく見られる体質的な特徴や個人差の範疇であることがほとんどです。特に、不完全右脚ブロックであれば、病的意義はほとんどなく、放置していいケースが大半です。
完全右脚ブロックであっても、それ単独であれば直ちに治療が必要になることは稀です。ただし「ブルガダ症候群」という、遺伝的に致死的な不整脈を起こしやすい病気も、一見すると右脚ブロックに似た波形を示すことがあるため、専門医による評価が重要です。
そのため、検診で初めて右脚ブロック(特に完全右脚ブロック)を指摘された場合は、放置せずに一度当院をご受診ください。
左脚ブロック(完全左脚ブロック、不完全左脚ブロック)
左脚ブロックは、健康診断の心電図判定で「要精密検査」となる重要な所見です。心臓を動かす電気信号の通り道のうち、全身に血液を送り出すメインである左心室へ向かう「左側の通り道(左脚)」が切れてしまっている状態を示すものです。
左脚ブロックは高血圧、心筋症、心サルコイドーシス、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)、弁膜症といった「何らかの重篤な心疾患」が背景にあって生じている可能性が高い所見です。
また、心疾患がなくても左脚ブロックを生じることはありますが、左脚ブロックの状態になると、それだけで左心室の動きのバランスやタイミングが崩れてしまいます。このズレ(同期不全)が長期間続くと、心臓のポンプ機能が低下して「心不全」を引き起こすことがあります。
そのため、検診で左脚ブロックを指摘された場合、決して「症状がないから」といって放置してはいけません。必ず循環器専門医による精密検査が必要ですので、当院へご相談ください。
ブルガダ型心電図
健康診断の心電図判定で、「ブルガダ型心電図」や「右脚ブロックとST上昇」などと記載される項目です。
この心電図波形は、心臓の筋肉の電気的な性質に遺伝的な特徴があることを示し、アジア人の男性に多く見られることが知られています。
この波形の心電図のある方のごく一部において、「心室細動」という致死的な不整脈を引き起こし、夜間の突然死の原因となることが知られているため、注意深い評価が必要です。
特に、過去に失神したことがある場合や、血縁者に突然死された方がいる場合は要注意です。これらに該当する方は、将来的に危険な不整脈を起こすリスクが高いため、専門的な検査や治療の対象となります。
検診で指摘された場合、心電図の形を専門医が詳細に判定し、危険なサイン(失神歴や家族歴)がないかを確認します。必要に応じてホルター心電図(長時間心電図)で危険な不整脈が出現していないかどうかをチェックしますので、過去に指摘されたことのある方は、一度ご相談いただければと思います。
WPW症候群
「デルタ波」と記載されることもある項目です。これは「生まれつき、心臓の中に余分な電気の通り道(副伝導路)がある状態」を示すものです。
通常、心房を通った心臓の電気信号は、「房室結節」という通路を通って心室へと伝わりますが、WPW症候群の方には、この通路をパスする「近道(副伝導路、ケント束とも言います)」が存在します。心房からの電気信号が近道を通って心室に先回りして伝わってしまうため、心電図の波形の立ち上がりが特徴的な形(デルタ波)になります。
WPW症候群の方の多くは、日常生活において全く無症状であり、健康な方と同じように生活しています。しかし、心臓の中で条件が揃うと、電気が正規ルートと近道をぐるぐると回転してしまい、「発作性上室性頻拍」という、突然脈が1分間に150回〜200回にもなる激しい動悸を引き起こすことがあります。
検診で指摘された場合、以下のような対応となります。
- 自覚症状(動悸)がない場合 : 基本的には「経過観察」で問題ありません。
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自覚症状(動悸)がある場合 : 「急に脈が速くなり、また急にもとに戻る」といった症状がある場合は、治療の対象となります。WPW症候群は「カテーテルアブレーション」という治療法によって、根治(完全に治すこと)が可能な病気です。
検診で指摘されたら、まずは当院にご相談ください。24時間心電図(ホルター心電図)などで隠れた不整脈がないかを確認します。
「最近ドキドキすることがある」という方は、我慢せずに早めにご相談いただければと思います。
左室高電位(左室肥大)
健康診断の心電図判定で、「左室高電位」あるいは「左室肥大」と記載される項目です。「心臓の筋肉から出ている電気信号が強い」ということを意味しています。
その理由は大きく分けて二つあります。
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実際に心臓の筋肉が分厚くなっている(左室肥大)」場合
- 筋肉は正常だが、痩せていて心臓と皮膚の距離が近いために強く記録されている(正常亜型)」場合
検診で指摘される方の多く、特に若い方や痩せ型の方の大部分は、後者の「② 正常亜型」です。心臓そのものは健康ですので治療の必要は全くありません。
一方で、注意が必要なのは前者の「① 左室肥大」です。これは、長年の高血圧などが原因で、心臓が全身に血液を送るために無理をして働き続けた結果、心臓の壁が分厚くなってしまった状態です。心臓は壁が分厚くなりすぎると、心臓のしなやかさが失われて硬くなり、広がりにくくなるため、将来的に心不全を引き起こす原因となります。
そのため、検診で指摘された場合は、一度は当院で心臓超音波検査(心エコー)を受けることをお勧めします。心臓の肥大などの異常が見つかった場合は、さらなる精密検査が必要となります。
異常Q波
健康診断の心電図判定で、「異常Q波」あるいは「陳旧性心筋梗塞の疑い」と記載される項目です。
この波形が意味することは、医学的には「心臓の筋肉の一部が電気を通さなくなっている(壊死している)」という可能性です。つまり、過去に「心筋梗塞」を起こし、その部分が瘢痕になって残っていることを示唆するサインとなります。
胸が痛くなったことは一度もない場合でも、心筋梗塞になることがあります。「無症候性心筋梗塞」といい、特に糖尿病をお持ちの方やご高齢の方では、発作時の痛みを「胃痛」や「胸焼け」と勘違いしてやり過ごしてしまい、検診で初めて「瘢痕」が見つかるというケースがあります。
ただし、異常Q波があるからといって、全ての方が心筋梗塞というわけではありません。心臓が横に寝ていたり、少し回転していたりするだけで、病気がない健康な方でも異常Q波として記録されることがあります。
この判定が出た場合に最も重要なのは、「本当に心筋梗塞があったのか」をはっきりさせることです。そのために不可欠なのが、心臓超音波検査(心エコー)です。
エコーで心臓を観察し、壁の動きが悪くなっている部分があれば心筋梗塞、全ての壁が元気に動いていれば異常なしと判断出来ますので、一度当院へご相談ください。
R波増高不良
健康診断の心電図判定で、「R波増高不良」と記載されます。この所見が医学的に重要とされる理由は、「心筋梗塞の痕跡(陳旧性心筋梗塞)」である可能性があるからです。そのため、検診判定では「要精密検査」として扱われます。
ただし多くの場合、電極のズレや体型による問題で、心臓の異常ではありません。したがって、この判定が出た場合に重要なのは、「心筋梗塞によるものなのか」、「単なる電極の位置や体型の問題なのか」を見極めることです。
これを確認するために最も確実な方法は、心臓超音波検査(心エコー)です。異常を指摘された場合は、当院は一度ご相談ください。
ST低下
健康診断の心電図判定で、「ST低下」あるいは「心筋虚血の疑い」と記載される項目です。
この所見は「心臓の筋肉に十分な酸素や栄養が行き渡っていない(酸欠状態)」という可能性です。そのため「狭心症」「心筋梗塞」のように、重大な疾患が潜んでいる可能性が高いため、検診判定でも「要精密検査」や「要医療」となることが一般的です。
しかし実際には、長年の高血圧によって心臓の筋肉が分厚くなっている場合や、単なる自律神経の影響、特に痩せ型の若年女性や閉経後の女性ではホルモンバランスの影響等でST低下が見られることが少なくありません(非特異的ST低下)。
一方で、糖尿病の方やご高齢の方では、痛みを感じない心臓の病気である可能性があるため、心臓超音波検査(心エコー)を行い、心臓の壁の動きに異常がないかを確認する必要があります。
「症状がないから」と放置せず、心臓の状態を知る良い機会と捉えて、一度ご相談ください。
T波異常・陰性T波
T波異常の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて以下の2つです。
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「生理的なもの(病気ではない)」
- 「病的なもの」
検診で指摘されるケースの多くは、前者の「生理的な変化」です。例えば、更年期の女性におけるホルモンバランスの変化、過労や睡眠不足、緊張などです。これらは「非特異的(特定の病気を指すものではない)」な変化であり治療の必要はありません。
一方で、見逃してはいけないのが後者の「病的な変化」です。狭心症や、高血圧によって心臓に負担がかかっている状態、あるいは電解質異常等のサインとして、T波に異常が出ている場合があります。特に、以前の検診では正常だったのに、今回急にT波異常を指摘されたと場合は注意が必要です。
この「生理的なもの」なのか「病的なもの」なのかを区別するためには、心電図検査だけでは不十分です。採血や心臓超音波検査(心エコー)で心臓の動きを直接観察することが重要です。
多くの場合は経過観察となりますが、まずは当院で検査を受けていただければと思います。
